ラッフルズとシェフィールド二人のお話、メインエピソードのログまとめです。
公開用というよりは完全に保管用。
他のサブエピソードなども織り交ぜながら再編集して若干の加筆等を行って本編を作っていますので、是非完全版の方もご覧になっていただけると嬉しいです。
【完全版】→ Unapproved Chronicle
皆口々に言う『彼はきっと、恋女神《イリス》に魅入られてしまったのだ』と。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) September 10, 2020
遥か遠い生まれる前の記憶。今に残るのは悔恨と思慕。 pic.twitter.com/p6alZtH1yJ
「困った事があれば、ラッフルズという者を頼ると良いだろう。賢く、勇敢な男だ。きっとお前の力になってくれる」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 5, 2020
「ラッフルズ……」
どこか懐かしい響きの名前。記憶の奥底に眠る名を、呟けば思い出せるような気がした。
(思い出せない。でも……)
《きっと私は、その人に会わねばならない――》 pic.twitter.com/sihR8goA10
急行馬車に揺られ、ケフルへ向かう。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 6, 2020
途中、短い夢を見る。
今まで何度も見た夢を。
青い鎧に蜂蜜色の髪、横顔からでも判る整った顔立ち――
まさに絵に描いたような勇者の姿。
ずっと思い出せなかった彼の名は、きっと私はもう知っている。
夢から覚めるとすでに夜明けは近く、城下は目前だった。 pic.twitter.com/IibkE58foR
「あの子もかなあ、キルギルからの補充要員ってのは」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 8, 2020
ふと渡り廊下から中庭を行く後ろ姿が目に留まり、呟く。視線を感じたのか細い背中がこちらを振り向いた。
目が合ったので、にこりと歯を見せ軽く手を振る。
節操のない事をするなと小言が聞こえても、特に意に介す様子もなく男は上機嫌だ―― pic.twitter.com/d8cwlWKRyJ
「ありゃ、逃げちゃった……」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 9, 2020
可憐な術士は驚いた表情を見せると一目散に駆けて行く。壁の向こうに消える背中を男は残念そうに目で追った。
「助平なにやけ顔で手を振ったりするからだ。怖がりもするだろう」
友は呆れて溜め息を吐く。失敬な、と男は反論した。
「ちゃんと下心は隠してたぞ、僕は」 pic.twitter.com/vtJyiwKeru
「嘘を吐け」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 9, 2020
開き直る悪友を手の甲で軽く小突いた。相変わらず悪びれる様子も無い彼は、少年の様な笑みを浮かべ楽しそうに肩を揺らしている。気取る相手が側に居なければ、この優男でさえこんなものなのだ。「まったく」と、つい釣られて苦笑いを浮かべた。
「ほら行くぞ。そろそろ見張りの交代だ」 pic.twitter.com/ko3ciJhTa5
『思わず、逃げてしまった』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 11, 2020
だってこんなにも突然、何の前触れも無く目の前に現れるなんて……!
彼は間違いなく”あの人”でした。
少しだけ印象の違いに戸惑ってしまったのです。
夢の中の私はいつも、彼の後ろ姿や横顔ばかり追っていたから――
《夢で見た通り、彼は太陽の様な暖かい人だった》 pic.twitter.com/5ePHgP1yLY
随分昔の夢を見た。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 13, 2020
僕も君も、互いに一番ギラギラしていたあの頃。
君さえ居れば国を変えられると、見たことのない地平に立てるのだと、凡才に過ぎない僕は本気で明日を信じていたんだ。
思えば何時も”僕だけ”は良い時代を生きていたね。
《朋に本当の危難が訪れる頃、何時も僕はもう居なかった》 pic.twitter.com/asuTx3foVN
いつもと違う国の、いつもと違うあの人の夢。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 14, 2020
ようやく追いついた背中は、抱き寄せるとまだ暖かかったけれど、とても重くて。
迫る軍靴の音に、私は最早彼の遺骸を守る事だけを考えました。
そのときは、それしか無かったのです――
《全てを引き換えに、全てを無に。誰にも何も奪わせない》 pic.twitter.com/BHeHFlCByJ
『微睡んで、夢を見て、目が覚めて』 pic.twitter.com/4QAo4v3vok
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) December 27, 2021
『君を見つけた朝のこと』 pic.twitter.com/0GyOmwYYWS
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) December 27, 2021
早朝。見覚えのある後ろ姿を見かけ、通りがかった礼拝堂の前で足を止める。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 17, 2020
「なるほど、君は恋女神《イリス》の信奉者だったのか」
真面目そうな顔をして、一体どんな祈りを捧げているのだろう――
好奇心でつい余計な詮索をしたくなる。
懸命に祈りを捧げる彼女は、こちらに気付く様子もない。 pic.twitter.com/ucAXFhy93p
神よ、何故あのような悲しい夢をみせるのですか。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 19, 2020
神よ、何故いつも彼を連れて行ってしまうのですか。
もう、これ以上繰り返したくないのです。
もう、背中を追うばかりの人生は送りたくないのです。
どうか、彼にご加護を。
どうか、私に勇気を。
どうか、我々にご慈悲を。
《祈り、願い、乞う》 pic.twitter.com/5V4v2iBCQf
「朝のお祈りかい?」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 23, 2020
祈りを妨げたのは朝日のように明るく澄んだ声。
振り返ると彼がすぐ側に佇んでいた。思わずその場にへたり込む。声が、出ない。
「ごめんよ、どうしても君と話がしてみたくて。
つい、邪魔をしてしまった」
《神は全てを施さない。与えられた機会は自身で掴むしかないのだ》 pic.twitter.com/SI5oinbDKF
「……ごめんなさいっ」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 24, 2020
それが初めて聞いた彼女の声。落ち着いていて優しい声は、か細く小さくとも耳によく届いた。
ああ、やっぱり――
耳まで真っ赤に染め上げて、彼女は俯きながら走り去る。声をかけた時からなんとなくこうなる気はしていた。
すれ違い様に感じた甘い香りだけがその場に残る。 pic.twitter.com/RuxigQGEgF
きっと、想い人の事でも考えていたのだろうな――
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 25, 2020
そして秘密を暴かれそうになった彼女は、逃げるように自分の前から立ち去ったのだ。悪いことをしたかなという罪悪感とそれでもなお知りたいという好奇心が胸に燻る。
「……ま、そのうちまた機会はあるさ」
女神の見守る礼拝堂で男は微笑み独り言つ。 pic.twitter.com/TuvdjgE0lt
また、逃げてしまった――
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) November 30, 2020
折角、正面から彼と言葉を交わす機会が訪れたのに。どうしてこうも自分は弱いのか、こんなことではまた同じ事の繰り返しだと、己の不甲斐なさに涙が零れる。
せめて一言「私もです」と伝えられれば――
灯りのない部屋の中、気まぐれな蒼い月明かりが俯く彼女を照らしていた。 pic.twitter.com/FsPEeAo83G
『心が通じる、その前』 pic.twitter.com/z0bZ7bPyh8
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) January 25, 2022
『この一週間、ずっと考えてたんだけど……』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) December 3, 2020
「あの子、絶対僕のこと好きだろ」
「真面目な顔で何を言い出すんだお前は」
「真面目な話をしてるんだよ、僕は!」
隊の仲間と朝食を共にした日のこと。奴が突然妙な事を言い出した。場に居る全員が呆れた顔をするが意に介した様子も無く、話は続く―― pic.twitter.com/k23Iw4D8pl
「じゃあもしその子と仲良くなれたら、僕等に一杯奢って下さいね。振られた時は奢りますから」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) December 5, 2020
「なんでだよ!逆だろ、普通!」
「幸せ税と不幸祝いです」
食事を終えても尚他愛のない会話は続く。ここだけみればまるで平穏そのもので、戦況が落ち着いているとはいえとても戦時とは思えない光景だ―― pic.twitter.com/3CHVDEefLN
『偶然は、すぐそこに』 pic.twitter.com/4qNYdOfsbB
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) January 31, 2022
(キルギルとは全然違うのね)
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) December 8, 2020
使いの帰り道、ヨモギの葉を袋一杯に抱えながらさりげなく市井の様子を伺う。通りには露店が並び、行き交う人影には鎧姿も多かった。ブルグナからの侵攻を一手に引き受けるこの国は常に戦時下にあったが、人々は皆強かで逞しく、何処も活気が満ちている。 pic.twitter.com/3uMMkhnrgo
だからさあ、明らかに好意がありそうなのに放っておくなんて馬鹿げてるって事を言いたいんだよ、僕は。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) December 12, 2020
君だって脈がありそうな可愛い子がいたら、ちょっと仲良くなっておこうかなとか思うだろ?
何? お前と一緒にするなって?
相変わらずだなあ君も。
『おしゃべりめ、いいから黙って支度をしろ』 pic.twitter.com/EemDGlrZfZ
『やれやれ、やっと見張り番から解放されたと思ったら』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) December 13, 2020
「今度は城下の見回りときたもんだ。上の連中、よっぽど我々に働いてもらいたくないらしい」
「……滅多な事を言うな。これも大事な仕事だ」
「勿論、判っているさ」
結局その”間”が君の本音なんだろう?
ああそうさ、判っているとも― pic.twitter.com/j98xPZXuqC
『やあ、可愛い店員さん!どうだいお店の調子は?最近特に変わったことはないかな?』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) February 6, 2021
……なんだよそんな顔するなって!別にただナンパしてんじゃないんだから!住民との交流は、円滑な市中警備の基本だろう?
それに、どうせなら何でも楽しくやらないと♪
ほら、ちゃんと君も協力して!笑顔笑顔! pic.twitter.com/ie7nRX1Qld
「美味しそうだね。僕も一つ貰おうかな」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) February 7, 2021
聞き覚えのある声に思考は遮られた。ぼんやり眺めていた景色が途端に明瞭になる。視線が真っ先に捉えたのはパン屋の店先で女と談笑している彼の姿。もしかしてと思う間もなく答えは目の前。しかし、状況を呑み込むには暫しの間が必要だった―― pic.twitter.com/2lRufCMVwZ
「……ラッフルズ!?」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) February 7, 2021
視覚の情報からやや遅れて頭が状況を理解する。思わずその名が口に出た。
(なぜ、貴方がここに居るの――!?)
ついこの前まで、彼は見張り塔に詰めていたのに。
一本道ではもう逃げ場も無い。身を隠すのも不自然だ。重い荷物を抱えた身体は後退ろうとして僅かにふらついた。 pic.twitter.com/y9vlW7eSDr
傍から見れば、何もない所で突然ひっくり返った様に見えただろう――。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) February 21, 2021
短い悲鳴と共に思い切り尻餅をついた。覚束無い足元に、スカートの裾が絡まったのだ。抱えたヨモギの束が、ばらけて少し布袋から零れる。
気付かれたと知るのは、空を仰ぐ手前のほんの一瞬の事だった。
《どうしろと、言うの?》 pic.twitter.com/ojQhc65YIS
「いったぁ……」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) February 21, 2021
腰を擦り身を起こす。頭が少し眩ついた。痛みと情けなさで視界が滲む。路の真ん中で突然派手にずっ転けたものだから、周囲が少しざわついていた。路行く人々の視線が痛い。
(ああ、このまま消えてしまいたい)
今すぐこの場を離れたくとも、しかし直ぐには立ち上がれそうもない―― pic.twitter.com/xF3Uj9M542
『大丈夫ですかお嬢さん』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) February 25, 2021
どこかおどけた調子の声。顔を上げれば、傍に片膝をついて拾ったヨモギの一本をこちらへ恭しく差し出す彼の姿が目の前にあった。芝居がかった気障な仕草が、嫌味な程よく似合っている。相変わらずの優男――。
「やあ、また会えたね」
目が合うと、彼はにこりと微笑んだ。 pic.twitter.com/Unq9bTjrdj
「餌付けか……?」
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) February 26, 2021
目の前の滑稽な状況に眉を顰める。草を手に跪く姿が小動物に餌をやっている様に見えた。
(まあ、判っていての悪ふざけだろうが)
随分なご執心だなと呆れ半分に笑う。跪かれている方も戸惑う素振りはあれどどうやら満更でも無いらしい。朴念仁にもその位は何となく理解できた。 pic.twitter.com/IwtA1CcZb8
その時、私は一体どんな表情をしていたのだろう――。
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) March 3, 2021
「立てるかい?」
声も出せずにただ見つめ返すばかりの私に、掌が差し伸べられた。彼の手の中にあったヨモギの一茎が、するりと落ちて布袋の中へ帰還する。
《頷き、彼の手を取る以外の選択肢があったとしても、きっと私はもう選べない》 pic.twitter.com/bSIGxMDIbE
『あ、ありがとうございますっ!!』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) September 25, 2021
一息に礼を述べ、落とした帽子をさっと拾って被ると深々頭を下げた。そして手を差し伸べてくれた彼が何かを喋り出す前に、顔も上げずその場を走り去る。
温もりの残る掌で帽子が飛ばぬよう抑えながら、彼女は真っ赤な泣きべそ顔で大通りをひたすら駆け抜けた。 pic.twitter.com/8EpIuS3TCs
『あーあ、また名前を聞きそびれちゃった』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) September 25, 2021
「あのまま帽子でも忘れていってくれれば、会いに行く口実も出来たんだけど…」
「なんだ、口実が無ければ会いにも行けないのか?」
残念そうに口をもぐつかせていた優男は、顔をしかめてじろりと友を睨んだ。
「まさか。僕を誰だと思っているんだい?」 pic.twitter.com/yN2u5tfOUc
どうして私は逃げてしまうの?
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) September 25, 2021
折角彼から手を差し伸べてくれたのに。
けれどもどうして彼は不意を突いて現れるの?
私が心の準備も出来ていないのに。
どうして、どうして…
生まれ変わっても夢にみる程焦がれていた筈なのに。
嗚呼、きっと私はずっと貴方の横顔ばかりを追って生きていたのですね。 pic.twitter.com/Hsbi80NVTq
『談笑する横顔』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) October 17, 2021
ああ、私はすっかり忘れてしまっていたのですね。
あの時は貴方と視線が重なる事なんて無いと思っていたから。
笑顔の貴方に近付く勇気が無かった私は、いつしか戦場での真剣な眼差しばかり追いかける様になっていたのです――
《戦場では臆する事無く彼の傍に居られたから》 pic.twitter.com/DXh6FuqhkB
『本日も城下は普段と変わりなし』
— かめ🐢🔥⚔@忙殺丸2023 (@T0M0M1_1T0) October 19, 2021
頑として自身等を重用しようとしない上層部への憤りを胸に、男は今日も笑って命に従う。些末事でも何れ役立つ時が来るやもと思えば、市井は情報という武器に溢れて見えた。
(いいさ、そっちがその気なら)
連中が無視できぬ程、民の信頼を得てやろうではないか。 pic.twitter.com/HxMMvrBS1X